→Rock'n Roll→  Aozora Tokunaga  top      第2巻

   043.ALL THAT YOU CAN'T LEAVE BEHIND

 僕とイッコーが顔を見合わせていると、足元に置いた僕達のソフトケースを指差してもう一度男の人が尋ねて来た。
「君達、音楽やってるんしょ?」
「ええ、まあ、はい……」
 あまり他人に訊かれるのは好きで無いけれど、素直に頷き答える。いちゃもんでもつけて来るのかなと身構えていると、先にイッコーが口を開いた。
「ま、金にもなんねー趣味みてーなもんだけどなー。今こいつとの練習の帰り」
 親指で僕を指差し、白い歯を見せる。すると男性が興味津々の目で僕達を見て来た。何だかやだなあ。
「バンド?ユニット?」
「バンドバンド。ホントは4人いっけどな。後の2人はライヴ終わったらすぐ帰ったん」
 イッコーはお遊びのつもりで話に付き合ってやっている。酔っ払いの相手も慣れていそうだから、ここは任せて黙っていよう。
「へーっ。2人、ライヴの帰りかー。他の2人は?」
「だからライヴ終わってからさっさと帰っちまったっつーの」
「あー、先に帰って練習行ってるのか。だからいないんだ」
「違げーっての。俺達がライヴ終わってから練習行ってたん」
「あれ?なら他の2人は?」
「だから先に帰ったっつってんじゃねーか。人の話聞け」
「そうか。君達が先に練習を切り上げたんだ」
「練習に行ったんはおれたちだけ。あいつらはライヴの後すぐ帰ったっつーの」
 しばらく二人の間で押し問答が続く。酔いで完全に頭の回っていない男の人に解らせようとイッコーが説明するも、相手も酔っているので引き下がろうとしない。
「だから今日のライヴが終わった後あいつらは先に帰って、おれとこいつがスタジオに練習に行ったの。そんで今はその帰り。わかったか?」
「あー。……まー、よくわからないからどっちでもいいか」
 イッコーが盛大にずっこけた。
「てめーっ」
「わーストップストップ!!」
 拳骨で殴りかかろうとしたので慌てて止める。怒るなら最初からあしらえばいいのに。
「どっちがギターでどっちがベース?それとも両方ともベース?」
「ギター2本ならともかくんなわけあるかっつーの」
 本気なのかよく分からない冗談を横で聞いていたけれど、何だか詳しそう、この人。
「おれがベースで、こいつがギター。つっても初めてまだ1年ちょっとだけどなこいつは」
「悪かったね」
 イッコーに痛い所を突かれ愚痴を返してしまう。いつもなら悪態もつかない僕のはずなのに、プライドを完全に崩されてしまったからか対応もどうでもよくなっている。
「『days』って言う名前のロックバンドをやってるの。僕がリーダーなんだけど、一番音楽暦が短くてみんなの足を引っ張ってる所」
 自暴自棄になって答えると、少し胸がすっとした。そう言えば僕は会話で受身に回ることが多いから、自分の鬱憤をあまり吐き出せていないんだ。
「客は入ってるけどなー、ヴォーカルがイケメンなのとドラム叩いてんのが女ってのがネックなんかなー、今はまだ人気先行ってとこだわ」
「それを言ったら元人気バンドのイッコーもいるからだと思うんですけれど」
「そりゃーしょーがねーだろ、おかげでチケットで稼いだ分スタジオ借りるんに回せてるんだから文句言うなっての」
「おかげでぱっと出で見られて、長年やってる人達からは妬ましい目で見られているけどね。まだ実力はないだろうけど、かと言って他と当てはめないで欲しいよね」
「ま、曲は全然固まってなくても一人一人めちゃめちゃうめーかんなー。おめー以外」
「分かっているんだから何度も言わないでよ、しつこいなもう」
 事実を指摘されてももうそれほど心は痛まないとは言え、何度も同じことを言われるのは嫌。
「ははは、君達おもしろいなー」
 二人でねちっこく言い合っていると、それを見た男の人がおかしそうに笑っていた。僕達はあまり面白くない。
「別におれたちゃ漫才師でも何でもねーって」
「そうだよ。僕だって一生懸命やってるのに」
「漫才を?」
「ちーがーうーっ」
 酔っ払いを相手にするのってこんなに疲れるのか。
「じゃ、一曲弾いてくれない?」
 参った顔で額を押さえていると、今度は軽口で頼んで来た。ますます気が滅入って来る。
「そうは言っても、救急車もすぐ来るし……」
「いいって青空、おめーが思ってっほど早くこねーよ、ずさんだかんな」
 それってこの国が病んでいる証拠じゃないのでしょうか?
「でも、ここでって言われても……」
 歩いて来た道は少し大きな車道だけど、周りには一軒家がたくさん並んでいる。ここで弾くのはいくらエレキギターでアンプを通していないと言っても近所……
「あーもー、ぐだぐだ言わねーで弾きゃーいーじゃねーか。それともなにか?人前で弾けねーほどヘタクソってことか?」
「あーっ、わかったよ、やるから。本当もう……」
 迷っていたけれどそこまで言われたらやるしかない。近所のみなさん、ごめんなさい。
「あれ、君は?」
 僕がギターを用意していると、怪訝に思ったのか男の人がイッコーに訊いてみる。
「だっておれ、ベースだもん。ここで合わせてたら迷惑かかるっしょ」
 何だか上手く逃げられた気がするけれど、ここは我慢。
「ヴォーカルじゃないから唄は下手だけど……そう言うことで」
 まともに聴いてくれるのか解らないので、一言断っておく。パイプに座り直していざギターを構えると、酔っ払い相手にギターを一曲聴かせるこの状況が酷く滑稽に思えた。
 場に流されている気がするけれど、プライドは潰されても僕にも意地がある。
 早い曲でストロークして近所の人に怒られるのも嫌なので、『夜明けの鼓動』の原曲を弾くことにした。バンドで合わせる時はテンポの早いロックナンバーになっているけれど、元々スローテンポのバラードの感じで創った。本当にメロディのいい曲なら、どんなテンポでもアレンジでも良さを壊さないと僕は思っている。
 それとわざわざこの曲を選んだのも、さっきイッコーに今まで創って来た曲を駄目出しされたから。確かに拙い所は山程あると思う。でも、生み出すための苦労や悩んで来た時間まで否定されたくない。けれど僕のささやかな反抗を、多分本人は気付いてくれないだろう。
 曲の最中に救急車が来ると嫌なので、2番を省略して短くしてみた。目の前で弾き語りしているのを知らない人にじっと観られるのは今も結構恥ずかしい。ギターを弾いている間、ずっと柊さんの姿が脳裏にちらついていた。相変わらず未練たらしい。
 幸い誰にも咎められることなく、最後まで演奏できた。出来はまずまず。
「……とまあ、こんな曲をやっています。実際はもっとロックですけど」
 ついついかしこまってしまう。でも柊さんの時よりはゆったり構えていたれた。
「おー凄い凄い」
 男の人は笑顔で拍手してくれたけれど、素直に受け止めていいのかどうか解らなかった。とりあえず喜んでくれたみたいなので良しとしよう。
「ま、すげーかどーかはおいといて」
「いいじゃない、喜んでくれているんだから。文句つけるならイッコーが弾けば?」
「おーよし、んじゃ貸せ」
「そんなこと言ったってもう救急車来るよ」
 挑発するように言うと鼻に付いたのか、イッコーが鼻息荒く僕のギターをひったくろうとした。でも今渡すと絶対思い切り弾きまくって迷惑になるのが目に見えるから死守する。
「テープないの?」
 二人で喧嘩していたら、不意に男の人に尋ねられた。3人で顔を見合わせる。
「あ、いや、練習用のテープしかないけど、全員のパート入ってるわけじゃないから……」
「なーにケチくせーこと言ってんだ、たそのヴォーカル入ってりゃ十分じゃねーか」
「それはそうだけど……」
「んなもんあとでおれんをダビングすりゃいーん」
 どうしてイッコーが酔っ払いの肩を持つのかは解らなかったけれど、正論なので渋々ソフトケースの中から黄昏の唄声が入ったテープを男の人に渡した。少し腑に落ちないけれど、多分こうした地道な活動が客寄せに繋がるんだと自分自身を納得させる。
「第一僕が下手だって言うのならイッコーが弾けば良かったのに。文句言われるのには慣れているけど、僕だって聖人じゃないんだから。怒ったりやる気無くしたりする時だってあるし、そんな何度も何度も言って来るのなら千夜さんとどこも変わらないよ」
 腹の虫が治まらないので、僕は強引にイッコーの手を振り払いギターを直しながら文句を垂れた。内心嫌な気分だけど、言いたいことはお酒の力を借りてでもきちんと言っておかないと気が済まない。
 怒りの感情は嫌い。でも、我慢し過ぎて胃に穴が開くよりはマシ。何もかも抱え込んでいいひとぶっているよりは、時にはこうしてぶちまけるのもいい。
 でもやっぱり、他人の気持ちを逆撫でする言葉は言っていて気持ちのいいものじゃない。
「おめーなあ……ま、いいや」
 さすがに僕の態度に心底呆れたのか、イッコーは追及すらして来なかった。
 ごめん、どうやら僕には他人を憎むことは出来ないみたい。
 内心ひたすら謝りつつ、僕はそっぽを向き救急車の音が聞こえないか耳を澄ませた。
「まあまあ、ただ仲がいいよりも喧嘩してる方が僕としては信用できるよ」
 僕達の空気を感じ取ったのかどうかはともかく、男の人が微笑みを振り撒いて来る。
「そんな言いかたすっけど、誰よあんた」
 イッコーがその言葉に疑問に抱いたのか、細い目を返した。確かにただの酔っ払いには見えない。昔バンドをやっていたとか、そんな所かな?
「誰?誰って言われると……あ、そーだ、これ……」
 問いに答える前に男の人は内ポケットから何かを取り出そうとするものの、酔っているせいか上手く取り出せない。
「つーかそれ、リバーシブルじゃねえ?逆に着てんじゃねーの?」
 イッコーが男の人の黒いジャンパーを見て指摘する。僕も近づいて内側を確認すると、どうやらそうみたい。リバーシブルのジャンパーなんて初めて観た。
 今日は何だかもう、初めてだらけ。
「ここ、ここ、取って」
 言われるままに指差している外側の右ポケットを僕が探ると、黒皮の横長い財布が出て来た。盗むつもりは無いとは言え、凄まじく後ろめたい。
 そんな気持ちを振り払いたくて財布を渡すと、中を探り始めた。
「お、お金なんていりませんよ」
「あ、そう?じゃ……これ」
 お酒臭い息と共に名刺を渡される。イッコーにも渡そうと彼が立ち上がろうとすると、また足の痛みを忘れていて地面に転がった。気を抜くと大変、酔っ払いの看護は。
「シーブルーミュージック、事務取締役、泊 夏海(とまり なつみ)……」
「女みてーな名前」
「悪かったね」
 イッコーが茶化すと男の人が苦笑する。その横で僕はじっと渡された名刺を見ていた。
「おっさん、どっかのレコード会社の社員?」
 レコード会社!?
「違う違う。昔は大手レコード会社に勤めてたけどね。今は独立して事務所開いてるんだ」
 事務所!?
「はー。どーりで聞いたことねー名前だと思ったわ」
 貰ったばかりの名刺を眺めながらのんびりとイッコーが言うのと対称的に、僕の頭の中は凄まじい妄想が膨れ上がっていた。
 これってもしかして運命の出会いと言う奴では?とか、事務所って言えばレコード会社に所属している訳だからプロの代名詞だよね?とか、目の前が一気に開け僕の人生は薔薇色に塗り変わるんじゃないかとか、また甘いことばかり頭の中で駆け巡る。
「まあ何かあったら、こういうもんだけど」
 笑っている男の人と名刺を何度も交互に見ても、威厳があるのかどうかはさっぱり分からない。それを言うと酔っ払いに威厳も何もあったものじゃないか。
「あ、そろそろ来っかな」
 僕の耳にも微かに救急車のサイレンが聞こえて来た。とりあえず僕も名刺を懐にしまい、パイプに腰掛け直し待つ。その間も妄想のせいで心臓が物凄い勢いで脈打っていた。
「君達はどこでライヴやってるの?」
「ま、このへんかなー。つってもまだ始めたばっかだし、客も少ねーけど」
「バンドの編成は?」
「おれがベースでこいつがギター。一応リーダーってことになってっけど。あとはドラムの千夜ってやつと、ヴォーカルの黄昏ってやつ。カッコつけてる名前だけど本名よ」
「ビジュアル系?」
「じゃねーんだけどなー。妙にルックスいーんだよなーあいつら。つっても顔で選んだわけじゃねーけど。実力だけでつったらこの界隈じゃずば抜けてんじゃねーかな二人とも。つっても知名度なんてねーけどな、千夜はあるけど。いろいろかけもちしてるし、女だし」
「女の子なんだ?」
「物珍しーから目立つけどな、男よりいーもん持ってるし。ってか男そのものなんだわ、あいつ。いっつも黒づくめだし、平気で男ぶっ飛ばすし」
「へーっ」
 イッコーと男の人が雑談している横で、僕はいろいろ妄想の続きを考えていた。ついさっき才能が無いとまで言われていたのに、現金なもの。これなら思ったよりも早く柊さんに音を届けられるかもとか、その後のことをいろいろいろいろ。
 昔からこうして自分の未来や将来を妄想するのだけは人一倍強いのに、それが僕を簡単に諦め易い性格にした原因になっているのにはいい加減気付いていた。それでも止められないのはもう体に染みついてしまっているから。
 現実はなかなか、妄想を上回ってくれない。
「ま、まだまだCDにできるレベルじゃねーかんな、しばらく頑張ってみるわ」
 話を締め、イッコーが車道に出る。サイレンの音が大きくなり、2、3角を曲がれば救急車の姿も見えるだろう。僕も妄想に一旦区切りをし、また勝手に動こうとして足を悪化させないように男の人のそばで見張っていた。
「ったく、マジ遅いなー。ま、急いでるわけじゃねーから別にいーんだけど」
 そうは言うけれど、急いでいてもイッコーなら助けるだろう。そう言う人だから。
 来た道の方向から救急車が赤いランプを回しながらやって来て、僕達の目の前で止まる。こんなに近くで見るのは実は初めてで、何故か緊張していたりする。
「どうも、おつかれさまですー。えっと、この人です」
 さっきまで愚痴を言っていたのが嘘のようにはきはきと救急隊員の人に答えているイッコー。僕は何も分からないので、受け答えは全部イッコーに任せ後で見守る。他の隊員さん二人が男の人に怪我の個所を問い質し、青い担架を使い救急車から降ろした診療台の上に乗せた。物珍しさに近づいて見ている僕。
「じゃ、また何かあったら。ありがとうね」
「お大事に」
 寝かせられた男の人にお礼を言われると、名刺を貰ったこととは別に嬉しくなる。足は痛むみたいだけど元気そうなので良かった。いいことをしたら胸が温かくなる。
 イッコーと話をしていた隊員さんに僕も名前を訊かれたので答えた。手荷物は持っていなかったので、忘れ物は他に無い。頭を下げられたので、同じように僕達も返した。
「ふーっ」
 サイレンを鳴らしながら去って行く救急車の後姿を眺めながら、イッコーが大きく溜め息をついた。僕もつられ溜め息を長く吐く。いろいろあって、とても疲れた。今日のライヴよりも練習よりも今のが一番疲れた気がする。
「んじゃ帰るか」
「そうだね」
 僕達は顔を見合わせ、帰り道を歩き始めた。多分こんな日常に無い経験は一生忘れないだろう。それと、名刺を貰ったことも。
 もしかしたら、今日がこれからの僕にとってとても大切な日になるかも知れないから。
「なあ青空」
「何?」
 浮かれ気分で歩いていると、イッコーが声をかけて来た。
「今の名刺破り捨てとけよ。おめーなら持ってたらぜってー電話すっから」
 見透かされていたのか、思い切り痛い釘を刺して来る。
「え、でも……」
 せっかくのチャンスをみすみす棒に振るなんて真似、僕にはできない。
「おれたちにまだそんな実力がねーってことぐれー、おめーが一番良くわかってんだろ」
 言い澱む僕にイッコーが恐い顔で手の平を出して来る。
 まだ早いのはこの機会でのぼせている頭でもちゃんと解っている。と言っても、一気にステップアップできるチャンスに執着心は簡単に拭い切れない。
「だいじょーぶだって。そん時が来ればおれがもらった分、おめーに渡すから」
 そう言われると従わざるを得ない。イッコーは抜け駆けをする人間じゃないし、僕のことを想ってこその言葉なのも感じているので、言われるままに内ポケットから名刺を取り出し、差し出された手の上に置いた。
「ふんぬっ」
 力を込め、鼻息荒く僕の名刺をイッコーが微塵に破り捨てる。吹きつける風に流され、今来た道に紙屑と化し散らばっていった。ああ……。
「今日のことは忘れて、気持ち切り替えな。ホントにいいもんやってたら、こんなんなくたって向こうからいくらでもチャンスなんてやって来るわ」
 来た道を振り返る未練たっぷりな僕を励ましてくれるけれど、残念な気持ちは抜けない。そう言えば僕達二人もあの人に名乗るのをすっかり忘れていた。
「ギターだって、まずまず上手く行ったと思ったけど……」
「おめーなあ」
 後を振り返りながら歩く僕を見て、イッコーが呆れた顔で頭を掻いた。
「うぬぼれてんのかわかんねーけど、おめーの腕はまだまだ甘めー」
 僕の未練を断ち切ろうと、はっきりと断定して来る。
「そりゃまー、1年でそんだけ上達したんはたいしたもんだと思うぜおれも。でもな、及第点は多いけどワンパンチ足んねーんだおめーのは。まあまあでしかねーんだわ、まだな」
 悔しいけれど何も言い返せない。下手なら下手なりに何か一つ突き抜けたものでもないかと思ってかなり手癖に頼っていても、それが個性になるまでには至らないのは自分が一番良く解っているから。
「ホントにプロでやってくつもりがあんだったら、あと5段階、いや10段階ぐれーのぼらねーとダメだろーなーおめーは。もちろんおれだって千夜だってまだ2段階くれー必要だと思うけどよ。ま、たそは……今でも十分太刀打ちできっかなー、あいつは。もし今のやつがたその唄声聴いて近づいてきても、まだ今は追い払っとくから安心しときな」
「うーん……」
 安心するやら、残念やら。
 とにかく今日は今の自分のレベルを完膚無きまでに思い知らされ、しばらく何もやる気が起こらない感じ。それと黄昏やみんながまだまだ遠い位置にいるのを改めて知り、一向に縮まらない距離にうんざりしたのと同時に、自分の才能の無さに嘆いた。
 本当に僕はこの道を歩いて良かったのかな?
 そんな自分自身を否定してしまいたくなる気持ちさえ生まれて来た。
 もう一度、未練たっぷりに後を振り返る。歩いて来た薄暗い道はどこかぼやけて見え、吹きすさぶ木枯らしが道端の枯れ葉を舞い上げていた。
 ――でも、弱音を吐いていたら駄目。
 柊さんと約束したんだ。諦める訳にはいかないんだ。


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