→Rock'n Roll→  Aozora Tokunaga  top      第2巻

   056.そばにいるから

「お久しぶりです、お元気ですか?柊です。
 こうして手紙を送るのは2度目ですね。あれからもう4ヶ月以上経っているなんて、何だか不思議な感じがします。目を瞑れば今でもあの日の事をはっきりと思い出せて。」
 柊さんから三ヶ月ぶりに届いた手紙の始まりは、こんな感じ。
「こちらはまだ季節が移り変わった感じがしないで、冬が続いているように思えます。先週は雪が降りました。本当に後一月で桜が咲くのか甚だ疑問です。
 そちらは暖かくなりましたか?猛威を奮っていたインフルエンザは治まっていると思いますが、風邪等引かぬようお体には気をつけて下さいね。そう言えばもうすぐ花粉の飛ぶ季節ですが、青空さんは大丈夫ですか?私は花粉症なのでこの季節はとても辛いです。」
 花粉対策で完全防護した柊さんの顔が思い浮かび、苦笑した。
「無事、高校の2年も終わりました。2学期末の編入で心配していましたが、学年が終わる頃には随分友達もできました。こちらの人は都会からやって来る人は珍しいようで、予想以上にみんなが構ってくれたおかげで難なく溶けこめて、よかったです。
 水海にいる時は、あんなに苦労してたんですけど……。」
 最後に別れた後からずっと気にかかっていたので、心配が杞憂に終わり胸を撫で下ろした。何はともあれ、充実した日常を送れているようで僕も嬉しい。
「正月に年賀状を出した時には何も判らず右往左往していましたが、ようやくこちらの生活にも慣れました。とにかく雪が多くて大変です。少しでも寒くなると、空からぱらぱらと……。水海で見る雪はとても素敵ですが、こちらだと当たり前のようにあって……。」
 結局今年の冬はあまり雪が降らなかった。寒い日と暖かい日のメリハリがついていた感じ。でも今年は去年以上に大変で、気苦労が多かった。どうも2年前からこの季節は鬼門になっているみたいで、来年もまた何かあるのかと考えると先が思いやられる。
「いよいよ4月から受験生です。
 どうやら大学には親も通わせてくれるようなので安心していますが、今はまだどこの学校にするかは決めていません。国文学科に通いたい気持ちがあるので、そちら側に進もうと思っていますが……。」
 こちらの大学も受ける、みたいなことは前に話していたけれど、いくら何でもそれは無いだろう。水海の街に置いて来たのは黒猫のイーラだけみたいで、思い入れはあっても友人もいないなら相当苦労するに違いない。
 僕としては向こう側で新しく出来た友達と楽しく暮らして欲しい気持ちがある。勿論もう一度会いたい気持ちはあっても、それとこれとは話が別。
「話は変わって、1月に『mine』、届きました。ありがとうございます。大きな封筒に入って送られてきたのでちょっとびっくりしてしまいました」
 無事届いていたようで良かった。返信がこれまで無かったので、郵便事故でも起こっているのかなと心配していたから。
 正月に今年は去年と同じように誰からも年賀状が無いだろうと思っていた所に、ポストを覗いてみたら柊さんから来ていたから心底驚いた。その年賀状は以前貰った手書きの歌詞と共に、大切に保管してある。
 住所がきちんと書かれていたから、約束通りに実家でデータをプリントアウトして送ってあげた。その時に『mine』を読み返すと稚拙過ぎて顔から火が吹きそうなほど恥ずかしかったけれど、あえて手は加えなかった。あの時の自分が、丸々そこに入っているから。
「『mine』の感想については長くなりそうなので、同封した別の便箋にまとめておきました。ちょっと入れ込みすぎて、読みにくいかもしれません。すいません……。」
 紙の上でも柊さんは謝ったり、『……』を多くつけているので面白い。しかし相変わらず綺麗な文字で惚れ惚れする。僕は音楽を始めてからはもっぱら走り書きだから。
 届いた縦長の封筒には、別にクリップでまとめられた便箋が2枚重なっていた。メインのと同じ種類の横書きの物で、元々の仕様なのか香水みたいないい香りが染みついている。柊さんの部屋の香りかなとも思い、慌てて脳内でその見解を否定した。
「送って頂いて本当に良かったです。やっぱり青空さんだな、って思って……。」
 別の便箋の内容も、最後にはこの一言に集約されている。文面を見る限りでは相当気に入ってくれたみたいなので嬉しい。出来はともかく、創った作品を褒められるのは僕自身が褒められているのと同じだから。
 でもいつも100%相手に自分の想いが届けばいいのにと思っているのに、いざ両手を挙げて歓迎されると照れ臭くなると言うか、変にしっくり来ないのは何故だろう?
 もしかすると僕は、常に自分のことよりも他人を求めているのかも知れない。
「『days』の方、順調に活動できているでしょうか?
 ライヴが観れなくなった今でも、青空さんに頂いた歌詞の文面を読み返しては頭の中で『days』の曲を思い返しています。意外と結構覚えているもので、自分でも驚きです。」
 柊さんは僕達が解散しそうになったことを知らない。伝えていないから。
 年賀状の返信の時にもクリスマスライヴが大盛況だったことを記し、悪い部分は全く書かないようにした。事細かく書き記して不安を煽るよりは、余計な部分は切り捨て喜んで貰った方がいい。嘘をついている訳じゃないから後ろめたい気持ちは無かった。
「今となっては、水海にいた時間がとても過去の事に思えます。
 場所が違うおかげか、生活も随分変わりました。私の中でも音楽に対する気持ちが幾分変化してきたように思えます。青空さんに叱られた時にはまだ自分の中で把握する事ができませんでしたが、今はその意味も少しずつ肌で実感しています。周りの人達のおかげで。」
 この文章を読んだ時、腰が砕けるほど安心した。
 あの時からずっと僕の中で柊さんを泣かせたことが負い目になっていたから。励ましの言葉のつもりが、相手に傷を与えてしまっただけになったと思うと僕の存在意義が揺らいでしまう。そうじゃないと自分に言い聞かせていても、心のどこかで疑っていた。
 おせっかいと思われようが、自分の好きな相手の為に何かをしたい。
 その気持ちがあるから僕はこうしてステージの上で、ギターを弾いているんだ。
「でも、やっぱり『days』の曲が聴きたいな。毎日そう、思ってます。」
 さすがに申し訳無い気持ちで一杯になる。でもこの半年は本当に崖っぷちを走り続けている感じで、それ所じゃ無かった。
 クリスマスライヴで失敗していたらそのまま解散だったろうし、ファンの女の子二人があの時現れてくれなかったら確実に同じ末路を辿っていた。終わらなかっただけでも儲け物と心底思う。柊さんには悪いけれど――そう何度考えたか判らない。
 でも、もうすぐ。
「青空さん達のステージに立つ姿を観て、随分励まされました。変わらず今もバンドに精を出す日々が続いていますか?遠くにいると何も分からないので、大丈夫なのかな、うまく行ってるのかな?なんて空に問いかけてしまいます。余計な心配かもしれないですね。」
 この辺の書き方が詩人みたい。歌詞を書き写すくらいだから本を読むのが大好きなんだろう。
「そのまま青空さんには、夢を追い続けて欲しいです。私も、嬉しいですから。」
 紙の上だから、こうした恥ずかしい言葉が容易く出るんだろうな。
「――私にも、『夢』ができました。」
 次の段落にはそう、書かれていた。
「他人と比べると、些細で、笑われるかもしれませんが。
 私にとって、大切な物です。
 ずっとうっすらぼやけただけの物だったけど、今でははっきりと形作られています。
 今年は受験生で大変ですけど、私も頑張って追いかけてみようと思います。『days』に負けないように。青空さんに、一歩でも追いつけるように。」
 その『夢』が何なのか、手紙には書かれていなかった。恥ずかしいのか、まだ僕に知られたくないのか。しかしその分強い意志を感じられる。
 僕自身は夢を持って行動しているかと言うと、そうでもない。
 一体夢の概念が僕の中から消え去ったのはいつだろう?
 ――解った。僕は今、夢の途中にいるんだ。
 だから実感が無い。はっきりとした目的地がある訳でもなく、ただただ自分が進もうと思った道をひたすら歩く。その先に新しい未来が待っていると信じて。
 この道を進むって、自分の意志で決めたから。
 でも、それは考えるよりも遥かに困難で、何度も何度もめげそうになる。今も僕はふとした時に、巨大過ぎる壁を感じ恐くなる。前触れも無く、日常の中でそれは不意にやって来る。全身に悪寒が走り、押し潰されそうになる。
 いっそのこと何もかも捨て、どこか遠くへ行けたら。
 そんな弱い自分が滲み出て来る度に全身全霊を込め、必死に心の中から掻き消す。
 来るな来るな来るな来るな!
 目を見開いて、腹の底から心の声を出し、悪魔の囁きを払い除ける。
 おそらく僕にとっての弱い心は、黄昏の脅える暗闇と同じ。形が違うだけで、弱気になった心につけ込み僕を道の外へ引っ張り出そうとする。
 夢を追うことは、弱い自分と戦うこと。
 僕は音楽に取り組むことで、それを誤魔化しながら弱い心と連れ添って来た。相変わらず強くなった感じはしない。余計なことを言っては後悔し、自分の不甲斐無さに嘆く日々。
 でも打たれ強くなったとは思う。始めた頃は少し引き篭もっていた時期もあったせいか、些細なことにすぐ絶望を感じたりした。人と毎日接していると、悲しむ間も無く次々と難題が襲いかかって来る。
 自分が悪かろうが他人が悪かろうが、次のラウンドのゴングは鳴り続ける。
 いかに倒れないようにするか、倒れても立ち上がれるようにするか。
 そんな後向きな姿勢で僕は毎日を過ごしている。情けないと言われても、生き残るんだ。
「頑張って下さいね。今も私は『days』を応援してますから。
 また、手紙書きます。               柊 祈砂」
 最後は丁寧なサインで締め括られていた。
 柊さんが僕と同じ困難な道を歩んでいけるかどうかは判らない。僕よりも楽に歩いていけるかも知れないし、すぐに捨ててしまおうとするかも知れない。
 ――なら、柊さんに僕は何をしてやれる?
 手紙のサインの下に追伸が書かれている。
「イーラは元気にしていますか?
 たまには拭いてあげると喜びますよ。」
 その右横にボールペンで、小さな黒猫が描かれていた。目が大きくて、可愛い。
 黒猫のキーホルダーのイーラは普段一番持ち歩くエレキギターのソフトケースにつけている。素材は判らないけれど手の平に載せても重みを感じるほどしっかりした創りなので、何かの拍子にどこかが欠けたりはしていない。その精巧な造りに、棚に飾っていたくなる。
 イーラを見る度に柊さんの顔が脳裏にちらつく。キュウちゃん達と気兼ね無しに接することができるのも、柊さんと話していた時間が糧になっているおかげ。本当に彼女は、僕だけじゃなく『days』の未来も変えてくれた。
 遠く離れてしまったのに今でも身近に感じてしまうのは、イーラがそばにいるから。間を置いた手紙のやり取りでしか今は繋がりが無いけれど、手書きの便箋の分メールなんかよりも心がこもっている気がする。
「『小さなメロディ』」
 封筒の中にはもう一枚、そんな題名の誌が書かれている便箋が入っていた。
「私も青空さんを真似て、ちょっと書いてみました。
 気に入ってもらえれば幸いです。」
 一番下に申し訳無さそうに小さな文字でそう付け足されている。微笑ましい。
 その詩は僕が貰った歌詞の紙みたいに整然とまとめられていた。言葉数が多く、どちらかと言えば歌詞よりも詩集に載るような詩の印象を受ける。
 目を通してみると、新しい土地で感じた心情を綴ったものに思えた。女性の描くものと言うと気難しくどろっとした愛憎みたいなのを連想してしまうのだけど、柊さんの詩はとても足抜きが良く、言葉に羽が生えたみたいに感じる。
 『祈砂』と言う名前から受ける印象が、そのまま形になったみたい。目を瞑れば詩の情景が手に取るように浮かんで来る。
 風がきこえる。
 どこか淡い、しかし輪郭のはっきりした、空想と現実が8:2位で交じり合う世界。夢見心地だけど肌の感触だけは現実味を帯びている、そんな世界。
 リアリティを感じるのは、彼女が現実を認め始めて来たから?
 空想の世界にただ逃げることをせず、自分自身を受け入れるようになったから。詩の文面から僕はそんな想像を浮かべた。本人は違うと言って笑うかも知れない。
 僕が自分を初めて好きになれた、あの瞬間に近い気持ちを感じ胸が熱くなった。
『風と手を繋ぎたい。花びら舞うあの丘を、いつでもそばに感じられるように。
 野に咲く草と声を揃えて唄いたい。谷間をすり抜けて、どこまでも響け。
 降り積もった雪の下から、青い芽が笑いかけてくる。もうすぐだからって。
 空に浮かぶ雲は、今日も誰かの大切な想いを載せて風に流されていく。
 終着駅はどこ?それは、その人の心の中に。
 私の耳にもほら、メロディが届くから。』
 最後の文章を目にした瞬間、僕の耳元であのオルゴールの音が聞こえた。
「青空」
 黄昏の僕を呼ぶ声で、急速に現実に引き戻された。
「あ……」
 目の前には数え切れないほどのお客さん。フロアの照明が逆光になり、後ろの方までは確認出来ない。周りを見回すと、左横に黄昏が、その向こうにイッコーが、左斜め後に千夜さんがそれぞれ立ち位置で楽器を手にしていた。
 今、僕のいる場所は――そう、ステージの上。
 頭を目眩がするほど大きく振り、神経を覚まさせる。ギターを弾きながら酔いしれていたのか、半ば白昼夢を見ていたみたい。
「大丈夫か?」
 肩から赤橙のギターをかけた黄昏が僕の顔を心配そうに見つめて来る。白いYシャツはすっかり汗で肌に張り付いていて、髪の毛をうざったそうに後に掻き上げた。
「うん……意外と似合うなって思って、その格好」
「ほっとけ」
 僕の冗談半分の言葉をそっけなく流し、黄昏は前に向き直った。
「最後の曲だっけ」
「そう」
 マイクに入らないように小声で黄昏と確認を取り合う。気合を入れる為に、僕は自分の右手の袖を捲り上げた。薄手のパーカーでもここにいると熱い。
 一度深呼吸してから、マイクに口を近づける。
「えっと……新曲です。聴いて下さい」
 それだけ言うと、一呼吸置き、ギターのネックをしっかりと握る。青い僕のギターはステージの照明を受け、光を吸い込み表面が海水のように揺らめいていた。
 目を閉じ、始まりのリフを一音一音丁寧に奏でる。
「しばらく振りです、柊さん。青空です。お変わりなくお元気でしょうか?」
 こんな出だしで、柊さんに手紙を書こう。
「花粉症には辛い季節かも知れませんね。僕はアレルギーを持っていないので、その辛さは解りませんが……バイト先の店長さんも今は毎日マスクをしています。
 新生活のシーズンですが、相変わらず僕はバンド活動にいそしんでいます。
 『days』も順調ですよ。わざわざ心配してくれて有難うございます。
 2月に新しく協力してくれる人が二人できたので、今はその人達と一緒に曲を練り直したり、体制を変えている所です。そう言った意味では僕も新生活?
 黄昏もギターを持つようになり、イッコーも自分で曲を創って唄うようになりました。千夜さんは相変わらず今も怒鳴りっ放しです。何度怒られたことか……。
 メンバーは変わっていませんが、柊さんがいた頃とは全く別物になっているかも。
 と言っても、『days』の持つ雰囲気や詩世界は変わっていませんので安心して下さい。
 柊さんも無事にそちらの生活に馴染んだようで、何よりです。
 正月に頂いた年賀状の時点ではまだ分からなかったので心配していました。田舎と言うこともあって、周りの人達も人懐っこいのかもしれませんね。
 環境が変わって寒くなったと思うので、体調を崩さないよう気をつけて下さいね。僕も結構季節の移り目には弱くて、すぐ風邪を引いてしまいます。今はまだ大丈夫……かな?
 こちらではどうやらもうすぐ桜が咲くみたいです。
 水海のキャンディーパークには桜並木の道があるので、満開になったらバンドのみんなで観に行こうと思っています。その頃には暖かくなっていればいいんですが。
 そちらには自然が多いみたいなので、羨ましい限りです。水海の周りには山も海もありますが、景色の美しさは敵わないんじゃないでしょうか。
 でもそろそろ海をそばで眺めても大丈夫な季節になっているので、お気に入りの岩場にまた黄昏でも連れて行くつもりです。もし水海に来る機会があるようなら、紹介しますね。
 けどその前に受験ですね。
 大変だと思うので、頑張って下さい。僕の場合は現役時に付け焼き刃で受けてみた所、あっさり2校共落ちてしまいました。浪人生になって改めて1から勉強していましたが、バンドを始めたのでそのままなし崩しに辞めてしまいました。
 現役で受かる為にも、今からでも勉強を始めても早くはないですよ。
 イーラは変わらず元気です。僕のギターのソフトケースにいつもくっついています。
 肌が黒いので放っておくとすぐ埃が目立ってしまいますが、教えられた通りに拭いてみるとぴかぴかになりますね。光沢が戻ってとても綺麗です。
 本当に黒猫を飼いたいなあと思う時もありますが、今の家だと荒らされてしまいそうなので我慢しています。何だか、歌詞とか譜面の紙を破られてしまいそうで。
 この猫の目って本当に綺麗ですね。何でできてるんでしょう?子供の頃ビー玉でよく中に模様の入った綺麗な物がありましたが、それに近いんでしょうか。
 『mine』の感想、本当に有難うございました。
 まさかあれだけしっかりとした感想を貰えるなんて思っていなかったので、感激もひとしおです。自分の為に書いた作品ですが、執筆中は心のどこかにいつも誰かに見せても大丈夫なようにと心掛けていました。拙い文章ですいません本当に。
 今はバンドにかかりっきりになってしまい文はすっかり書かなくなっていますが、機会があればもう一つ、私小説でも書いてみたいです。あの頃の僕とは随分変わっているから、全く違った物が書けるんじゃないかと思って。
 その時にはまた、送りますね。
 『days』三昧の目まぐるしい日々が続いて今も昔も大変なままです。
 でも、夢の途中にいるんだと思うと、これほど幸せなことはありません。
 柊さんも新しくできた夢を掴めるように頑張って下さい。僕も頑張りますから。」
 だから、この曲を贈りたいと思います。
「同封されていた柊さんの詩、とても良かったです。
 上手く言葉に表せないので、どう言えばいいものか分からないですが……。
 とにかく、僕の感性に凄くしっくりと来ました。
 この前、1月位に、オルゴールを拾ったんです。黄昏と近所の河川敷を歩いている所に。
 詩を読んでいると、そのオルゴールの音が聞こえてくるような気がしました。
 拾った時は壊れていて、修理に出したんですが無事直って、今は自宅の棚の上に大切に保管しています。手の平サイズじゃなくて、結構大きいんですよ。
 何の曲なのかは解らないんですが、とても心に染みるインストゥメンタルです。
 それをヒントに新しい曲を一つ創ったんですが、歌詞を考える時間がなくて。
 なので、柊さんの詩から得たインスピレーションで思いついた歌詞をつけてみました。
 勝手とは思いましたが、その詩に込められていた物とぴったりと重なったんです。ちょうど自分がその時考えていたことと、その曲と、頂いた詩世界が。
 タイトルも自分で考えたんですが、結局これに勝る言葉は思い浮かびませんでした。すいません。お気に障るようなら、後で変更しておきます。
 『小さなメロディ』」


 寂れた部屋に置かれたオルゴール
 小さなメロディを抱えて眠ってた
 誰にも聞かれる事なく
 淋しそうに埃を被ってた

 少しネジを回してみると
 ゆっくりと奏ではじめた
 心の欠片が風に揺られて舞っていた

 色褪せた題名のないレコード
 小さなメロディを刻み込んでた
 誰にも気付かれず
 ひっそりと片隅に埋もれてた

 針を探してかけてみると
 だらしなく唄いはじめた
 心の音色が漣になって染み込んだ

 なにかを届けたくて
 なにかを受けとって
 ずっと つながってく

 今はもう動かない古びた大時計
 錆びるまでひたすら時を刻んでた
 同じ時間に鐘を鳴らし続け
 そして静かに眠りついた

 どんな音を奏でていたんだろう
 二度と鳴らない古時計は
 どんな小さなメロディを
 どんな


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