→Rock'n Roll→  Aozora Tokunaga  top      第3巻

   interlude023

 一度満たされる幸せを覚えてしまうと、それにすがりたくなってしまう。
 至福の時を過ごす素晴しさを体験してしまって、元の世界に戻りたくなくなる。
 その瞬間を得る為に困難な現実を生き抜いている、と声高に言った所で、本心と照らし合わせると詭弁でしか無いんだろう。永遠に満たされる時の中に存在するなんてできやしないのに。
 欲望は底無しで、引きずり込まれてしまうとどれだけ抜け出すのに大変な事か。
 むしろ、欲望を満たそうと動いている瞬間の方が、人間として一番輝いている時かも知れない。何かを追い求め、ただひたすらに自分を突き動かす。
 他人の心が欲しい。
 自分の事を愛してくれる存在が欲しい。
 金や物で欲望を満たし尽くした気でいても、それだけは簡単に手に入らない。誰かに愛される存在でいる事、それこそが全ての人間の生きている意味なのかとふと考える。
 愛情を受け取る感覚はすぐに実感できるのに、愛情を与える感覚はどこかあやふや。だからこそ自分の中に温かで満たされるものを欲しがる。形の無い、でも確かなもの。
 それをより強く感じたいから、僕はより他人を愛そうと思う。


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