110.持つべきもの
自分は何と未練たらしい人間なんだと、心の中で呟くのはこれで何十回目だろう?
駅で切符を買う時、自然とバイト先への停車駅までの料金ボタンを押していた。別にスタジオに寄ろうとしている訳じゃない。溢歌の家へ足を運びたくなったから。それと、少し岩場で頭を冷やしたい気持ちもあった。
顔を丹念に洗い、目薬を指し、涙の枯れ果てた目は多少腫れぽったいものの外出しても気にならない程度に戻った。こんな時、サングラスでもあればいいのに持っていない。普段全くかける気も無いので仕方無い。
溢歌に言われた通り家でギターの練習をするには部屋が広すぎて耐えられないので、少し早めに出かける事にした。孤独を感じ過ぎ、辛い。電車に揺られ雪景色の窓の外を眺めていると、不意に何度かこみ上げて来るものがあってきつかった。
演奏するのは最後とは言え、リハーサルはイベントの開始前に行う。携帯電話を覗いてみるとキュウからのメールが何通か入っていた。電話に出ないから、また今日もおかんむりになっている事だろう。ちっともリーダーの責務を果たしていない自分に笑う。
しかし溢歌は、本当に酷い事をしてくれる。おかげさまで、ちっとも気合いが入らないじゃないか。過去がどうこう言う以前に、いなくなってしまったダメージが大きい。
でも、ライヴは観に来てくれるんだ。それだけが今の心の支えになっている。今年もおそらく満員だろうし、一番後ろの方で観ているだろうからステージの上から溢歌の姿を確認するのはおそらく困難だろう。リハーサル前に楽屋に訪れてくれる事も無い筈。
せめてステージに立つ前にもう一度だけでも、溢歌の生声を聞いておきたかった。だからこうして岩場へと続く道を歩いている。途中スタジオに寄り、叔父さんに一声かけギターを預かって貰った。黄昏の使うギターは前回のライヴ後にイッコーに渡してある。
手ぶらの両手をジャンパーに突っ込み、冷たい風を受けながら海岸沿いを目指す。街路樹の葉はすっかり見当たらず、剥き出しの枝が寒さを増長していた。溢歌を見送った時には見えなかった雲が海側から流されて来たのか、曇り空になっている。時折雪の残る街並を切れ間から太陽が照らし、銀世界を美しく彩っていた。
そう言えば今日はクリスマスなんだっけ。今になって物凄く実感が無いのは、孤独だからか。
歩いている内に、冬の海が見えて来る。この海を観るのも随分久し振りな気がした。実家に溢歌がいるだろうから、はやる思いを胸に濡れた地面で滑らないよう足下に気をつけながら小走りで道路を渡り、防波堤を下りて行く。
冬の港と岩場には雪が積もっていた。さすがにここまで白いと岩場の先端には近づく事すら叶わない。そちらを一瞥するだけで、足を止めず溢歌の家の方角へ向かう。途中、人影は見えなかった。
木造一軒家の前に辿り着き、肩で呼吸を整える。人の気配のしないさびれた雰囲気が以前と変わらず、やや不安な面持ちで玄関扉に手をかけると、鍵がかかっていた。すかさず以前と同じように電気メーターを調べてみると、動いている様子が無い。
まさか、まだ、帰っていない?
一瞬背筋に寒気が走るも、慌てて否定した。いや、今の溢歌の事だから大丈夫。何か用事があるので他の場所へいるんだろう。あれだけ幸せそうな笑顔で今夜の約束をしてくれたんだ、僕が信じないでどうする。
心を落ち着かせようとするも、溢歌と会えなかった事は僕を落胆させるには十分で、奥底から深い溜め息が出た。ここで待っていても仕方無い。リハーサルに遅れキュウを困らせる真似はしたくないし、きちんと出て楽曲の最終確認をしておきたい。
後ろ髪引かれる思いで、その場を離れ港へと戻る。以前いなくなった時も実家に帰っている様子は無かったので、僕には知らない行き場所が他にあるのかも知れない。
引き返すと、港に見慣れた人影と茶色い犬が見えた。岩場をずっと見ていて、こちらに気付いていない。雪を踏み締める音と共に近づき、声をかける。
「黄昏?」
「……青空」
反射的に振り帰り、僕の顔を見る。不思議と嫉妬や憎しみは湧いて来なかった。それは向こうも同じで、どう反応していいのか困ったような顔を見せている。
黄昏も溢歌に会いに来たのかな?でもその様子だと、結果は同じみたい。
「行って……るんじゃなかったの?」
「愁へのプレゼントを買った寄り道。ちょっと海を観たくなって」
そう言い、砂色のコートのポケットからプレゼントの袋を覗かせる。愁ちゃんと仲良くやっているようで、安心した。溢歌がどうと言う以前に、とても真っ直ぐに黄昏の事を想うあの娘を泣かす真似はして欲しくなかった。
雪の降り積もった岩場に行けるかどうか、試しに足を運んでみる。剥き出しになった濡れた岩に足を置くと、簡単に滑ったのでやっぱり無理。黄昏の元へ戻る。これじゃ、溢歌が岩場から身投げするとか言う以前の問題。
「青空は?」
「似たようなものかな。頭を冷やしたくなったんだ」
黄昏に問い返され、うやむやに答える。溢歌に振られたのに未練たらたらで会いに来ました、だなんてみっともない事は言えない。
「飲むか?」
海の様子を眺めていると、黄昏がポケットからミルクティーの缶を差し出した。用意周到さに少し驚きつつ有難く頂戴する。少し温くなっているものの、手の中で転がし冷えた手を温めてから、中身に口をつけた。甘みと温もりが体全体に広がって行く。
いざこうして二人で会うと、何を話していいのかさっぱり分からなかった。バンドの話やら近況やら、溢歌の事やら、いくらでも話題はあるのに。今は黄昏よりも溢歌の事を考える割合が頭の大部分を占めていて、かける言葉が見つからない。
波止場に波が打ち上げられ、海風が頬に吹き付ける。太陽は見えているのにとても寒い。冬至も過ぎたばかりなので、夕方にはすぐ暗くなるだろう。
黄昏も、口にすれば溢歌の事しか出てこないからか何も言わず、僕の隣で黙ったまま海を眺めていた。そばにいた首輪の無い犬はあくびを浮かべ、集落の方へ走り出して行った。
「こうして、二人で海を眺めるのも久し振りだね」
「……そうだな」
「最初の頃は、練習が終わった後にここから夕日を眺めてたっけ」
ここにはたくさんの想い出が詰まっている。今は来る回数が少なくなってしまったけれど、昔はスタジオで練習が終わる度に来てたっけ。溢歌と初めて出会ったのも、ここ。まさに僕達の人生を語る上で欠かせない場所。
「たった二年だけど、すっかり変わったね、僕等」
「そうだな」
バンドを組み、人生が変わった。隣にいる黄昏も背丈が少し伸び、顔が男らしくなっている。再会した時は髪も長く、遠目から見ると異性に見える外見をしていたっけ。
たくさんの事を経験する度に成長し、そして失うものも増えて来た。若さから来る純粋さなんて、今はもうすっかり無いかも。そんな年を取っている訳じゃなくても、何も考えずにやりたい事に打ち込む事ができたあの日々がとても懐かしい。
思えば随分遠くまで来たものだ。
大海原を眺めていると、溢歌との日々が脳裏にフラッシュバックしていく。日によって何を話していたのか鮮明に思い出せるほどの濃密な時間。目を閉じれば溢歌の仕草や声が浮かんで来る。僕に人生を生きる上で最も大切な事を教えてくれた、溢歌。
「ふられちゃった」
黙っていても仕方無い。胸の内を楽にさせたい意味でも、黄昏に言っておこう。
「ふられた?」
「うん、怒らせちゃって、溢歌を」
あんなに取り乱してしまうなら過去なんて詮索せず、ただひたすら溢歌を抱き締めてやればよかったと後悔する。不器用な僕にはそれができなかった。でも、これが正解だったのかな、とも思う。本当の意味で溢歌を救う為には。
「わざわざ俺に言う事か?」
苦笑する黄昏。興味の無さそうな素振りを見せていても、僕に一番訊きたいと思っていた事がそれだろう。
「だって、あの娘が一番好きなのは君だから」
言ってから、どうだろうと自問する。おそらく僕と黄昏、相手を想う感情を天秤にかけても溢歌にとっては同じだろう。ただ、今は僕と一緒にいられないから、黄昏を選ぼうとしている、それだけの話。けれど、こう言った方が真正直な黄昏は喜ぶ。
「でも、ずっとお前のところにいたんだろ?」
「いたよ。毎日、肌を触れ合ってたと思う」
照れ隠しもせず言える自分が大人になったと感じる。溢歌の事を好きでいられるからこそ正直に話せるんだろう。
「だけど、それで相手の全てが解る訳じゃないんだ」
無人の岩場に目をやる。あの向こうには、溢歌と最初に肌を重ねた洞窟がある。
「溢歌には、何から何まで教えて貰った。女の子の身体を初めて知ったのも彼女だし、側にいて心が満たされる感じも、結局人間は一人一人違うんだって事も教えてくれた」
結局、別れるまでに溢歌の全てを知る事は叶わなかった。でも、知ったから何とかなったのか?と言われると、おそらく同じ結果に終わったろう。何故なら、僕が変わらないから。
昨日の夜、僕は溢歌とこれまでに無いほど近い距離にいられた気がする。溢歌も僕の気持ちは100%分かってくれていた。だからこそのすれ違い。相手の事をどれだけ理解していても、それが繋がる事と=で無い事を、僕は生まれて初めて知った。
「僕達は、お互いを求め合っていた。それでもふられちゃったのは、そうだね……あの娘の心は、僕だけじゃなくずっと君の方も見ていたからかな」
だって運命の人だしね、と心の中で付け足す。案の定、僕の言葉で黄昏は怪訝そうな表情を浮かべている。
「……でも、溢歌の事、好きなんだろ?お前」
黄昏に尋ねられ、僕は彼の方を向き強く頷いた。
「うん。世界中で誰よりも、溢歌が好きだ。君よりも」
僕にとって黄昏は大切なパートナー。しかしそれ以上に、溢歌の存在は今の僕にとって大きい。振られてしまった今でもその想いに変わりは無かった。
「……俺に告白してどうする……」
「あわわっ、ご、ごめん」
居たたまれなくなった黄昏が顔を背け、ようやく自分の真剣さに気付いた。黄昏よりも溢歌への想いは大きい事を伝えようと言った言葉が、これほど恥ずかしいなんて。
「それに俺、あいつのこと好きだなんて一言も言ってないけどな」
え?
一瞬言葉の意味が解らなかったものの、言われてみて気付いた。黄昏の口から直接溢歌の話を聞いた事は、実はこれまで一度も無い。スタジオで何も言わず殴られたくらいで、二人の関係は溢歌の口からしか聞いていなかったりした。
それも度々会ってはいても肌を重ね合ってはいない、その程度。でも、黄昏は溢歌の事を求めていないとも思えなかった。
「なら、どうして僕を避けてたの?」
「それは……」
気になって問い質すと、奥歯に物が挟まったような顔で明言を避けた。
「本当に黄昏ってすぐ顔に出るタイプだね」
「愁にも同じ事言われた」
その顔がおかしくて笑うと、参った顔で黄昏は肩を竦めてみせる。溢歌の事が好きだから、僕と一緒にいる事が許せなかったんだろう。
「溢歌と出会ったのが、あそこだったんだ」
黄昏は日差しで真っ白に輝いた、岩場の先端を指差した。きっと僕と同じように、あの場所で運命の出会いを果たしたに違いない。
「あの時、見てたんだって?この前、溢歌の口から聞いたよ」
「……ああ」
唇に手を当て答え、苦い顔を見せた。僕の顔を見ずに頭を掻く。スタジオで殴られたのは、その光景を見てしまった怒りから来ていたんだろう。その気持ちが十分解っているので、素直に許せた。
「でも、あれのおかげで、いろいろ考えさせられたから。どうして俺が歌を唄ってるのかとか、何のために唄ってたのかとか。あんまりいい想い出じゃないけどな」
「僕もだよ」
あの時殴られたおかげで自分の足場が崩れてしまった。そこから立ち直る意志が生まれたのは良かったけれど、その間に溢歌とひたすら性に溺れてしまった事が、結果的に別れの一因にも繋がった気がする。あの時ギターを捨てていれば……と有りもしない未来を想像した。
「溢歌と出会ってから、歌詞の事とか、バンドの事とか改めて考えるようになって……煮詰まっちゃって、迷惑ばかりかけちゃって。もう一度自分を見つめ直したかったから、連絡を取らないようにしてたのもあって……ごめん」
「俺に謝らなくてもいいって。借りはステージの上で返せばいいだけだからさ」
黄昏は僕に視線を合わせ言った。きっと黄昏は、僕が溢歌を奪ったと思っているんだろう。その考えは僕や溢歌からしてみるとおかしな話だけど、そう捉えてしまうのも無理は無い。愁ちゃんがいなかったら、きっと黄昏はナイフを持ってでも僕達の仲を裂きに来ただろう。嫉妬深い性格では無くても、驚くほど純粋過ぎるから。
「ねえ、黄昏」
一番のパートナーの名前を目の前で呼ぶのは、本当に久し振りな気がした。
「黄昏にとって、歌って何?」
「自分そのもの。唄う事で生きてる実感が沸くんだ。今までずっと気付かなかったけど、
俺が求めてるもの全部、歌で得られると思うんだ」
考える間も置かず、答えてみせる。その考え方が、実に黄昏らしい。
「俺は最初、自分のためだけに唄ってて……バンド始めてからは、青空の歌詞を、気持ちを、俺が感じたままに唄ってた。でも、そこに繋がりだとか、他人に届けるだとかそんな思いはなくて、気持ちを再現するのが一番大事――って言うか、そこしか見てなかったように思うんだ。実際、それで満足してたし。だから、お前が溢歌と抱き合ってたところを見た時、それが全部崩れて……唄う理由がなくなったんだ」
そこまで黄昏は思い詰めていたのかと今更ながらに驚く。実際、文化祭前は酷い状況に陥り、スタジオで過呼吸を起こし倒れたりした。あれも全て、僕を受け入れられなくなった事が起因になっていたと思うと、心苦しい。
「ずっと青空に依存してたせいで、本当に自分が唄いたいものを見失ってた。それは悪い事じゃなかったけど、あのまま行ってたら、いつか絶対行き詰まってたと思う。皮肉な話だけど、溢歌のおかげで自分を再確認できるようになったんだ」
それは僕も同じ。黄昏が歌えるようにとばかり考えていたおかげで、作る曲の幅を知らずの内に狭めてしまっていた。だから千夜に溢歌への曲を聴かせた時に褒められたのは、嬉しかった。
「この一ヶ月ぐらい、ずっと考えてた。誰のために唄うのか、何のために唄ってるのか。
聴いてくれるひとのため、想いを届けたいひとのため、自分のため。他人を満たしてやるため、繋がりが欲しいため、自分を救うため。理由なんてたくさんあるけど、行きつく結論はいつも『俺が唄いたいから』になるんだ。唄うといろんなものを見つけられる。楽しいし、俺が俺なんだってことを一番感じられる。俺が生きてる意味なんてどれだけ考えたところでわからないけど、唄ってる時は『ここにいていいんだ』って思えるんだ」
とても充実した表情で話す黄昏を見て、羨ましいと思えた。しばらく見ない間に、こんなにも人間的に成長しているなんて。もう、僕の手を借りずとも一人で巣立ちできるくらいの意志の強さを持っている事に嬉しさを覚えると同時に、寂しくもあった。
「そして、自分が唄いたいのは何なのかを、これから探して行きたい。自分が唄いたいのは何なのか」
力強く、周囲の自然に今の言葉を忘れないようにと言い聞かせるが如く、強い意志で言い放つ。黄昏の黒の両目には、かつてステージで熱唱していた時のような輝きが戻っていた。その姿を見ているだけで背筋が震える。
この感覚。この感覚が忘れられなくて、僕はバンドを続けているのかも知れない。
「……何だかこっちも、それを聞いてとても楽になれたよ」
「何が?」
「ううん、こっちの話」
冷たくなったミルクティーの中身を飲み干し、缶を足下に置いてから積もった雪を素手で掬い上げ、玉にして目の前の海へ放り投げた。重い音と共に水しぶきが上がる。
ここでこれ以上、溢歌を待っていても仕方無い。両手の水滴をジャンパーで拭き、うんと背伸びをする。精神的にすっかり疲れ切っているのに、これから本番があると思うとさすがに気が滅入って来た。無事乗り切れるのかな?
「そろそろ行こう。電車で来たんだよね?」
黄昏は戸惑い気味に頷く。きっと黄昏も、溢歌目当てでここへ足を運んだんだろう。
「溢歌には頼んだよ。観に来てって」
気持ちを前向きにさせる為に、黄昏に言う。僕は溢歌の事を信じているから何の問題も無いけれど、それでも黄昏はまだ迷ったようにその場から動こうとしなかった。
「彼女を信じられないのかい?」
俯いた黄昏に厳しく言うと、目を見開き顔を上げた。もう、大丈夫だね。
「なあ、青空」
先に引き上げようとすると、黄昏が背中から声をかけて来た。
「俺の事、憎んでる?」
足を止め、考えながら振り返る。正直、今でも黄昏の姿を見ていると複雑な感情が浮かんで来る。こうして普通に話せている事も嬉しいし、溢歌との関係を疎ましく思う事もある。一言では言い表せない感情があり、その一つ一つを自分でもはっきりと理解できているのかどうか判らない。
いや、もうこんな考えは捨てよう。
首を左右に振り、余計なしがらみを全て断ち切る。
「全然って言ったら嘘になるけど、今会って吹っ切れたよ。僕だって、トモダチを憎みたいだなんて思ってなかったから」
そう、今でも黄昏は僕の友達。だからこそ、憎む真似なんてしたくないんだ。
「それでも、溢歌を簡単に諦めるわけにはいかないけどね」
別れを告げられたとは言え、このまま手放してしまうつもりは無い。今日のライヴで、僕の持っている音楽への想いを伝えてやりたい。そして、溢歌が過去の呪縛から抜け出せるきっかけになればいいと思う。届けたかった歌がまだ完成していなくても、ギターの響きに想いを乗せる事はできる。今日はその為にステージに立つんだから。
雲の切れ間から晴れ間が姿を現し、辺り一面をまばゆく照らす。昨日と同じくクリスマスも長い一日になりそうな予感がし、僕は気を引き締めた。
黄昏も長いコートを羽織り直し、かじかむ手に息を吹きかけながら僕を追い抜いて行く。結局溢歌とは会えなかったけれど、ライヴ前に二人きりで黄昏と話せる時間が作れて良かった。きっと向こうも同じ気持ちでいる。
「最高のクリスマスにしような」
黄昏の言葉に、口元を緩ませ頷いてみせる。
「最高のものじゃないと溢歌、絶対怒るよ」
「ああ、その通りだな」
自信満々に言う黄昏につられ、二人で笑い合った。
海から吹く風が、優しく頬を撫でる。
どこかで再び、鎖が絡み合う音が聞こえた気がした。