→Rock'n Roll→  Aozora Tokunaga  top      第4巻

「二つに一つ、この世に最も大切なものを天秤にかける時が来たとしたら?
 人生はそんな瞬間の連続。
 道はまだまだ続いていて、振り返ればスタートラインは水平線の遥か向こうで、今や最初に感じた気持ちさえも心の中で薄れて行っている。
 無数の分岐点があって、何度と無い絶望と後悔を味わいながら引いた一本の道標。何もかも放棄してしまいたくなるのを踏み止まらせるのは、きっと自分の為じゃない。
 好きな人が僕を見てくれる事を望んでいる。僕が、好きな人をいつまでも見ていたい。
 言葉だけでは語り尽くせない温かな感情が、二人を繋ぎ止めている。
 しかしその絆も、ふとした瞬間に壊れてしまう事もある。些細なきっかけや、第三者の存在のせいで。この世は何もかも自分達を中心に上手く運ばない。悪い人間なんていくらでもいるし、他人の幸せを妬み、横取りしようとする汚い人達も残念ながら存在している。
 気付かないだけで、自分にもそんな部分があるのかもしれないけれど……。
 相手を憎む気持ちや怒る気持ち、許さず憎悪の感情をいつまでも持ち続ける――なんて、見知らぬ相手にはできそうだけれど、大切な人相手にそれができる?
 胸の奥で詫びつつ、相手を傷つける言葉を吐く事ができる?
 ――もう一つ大切なものを護る為に、それができそうな自分が怖い。
 でも本当は、どちらも手放したくない。この現実で生きて行く為に必要な酸素ボンベを一つ外してしまうと、呼吸が苦しくなるのが目に見えているもの。
 みんなが笑い合えるお花畑なんてこの世にほんのちょっぴりしか無くて、いつまでもその中で生きて行く事なんてできないんだよ。だから僕等はさまよいながら道を歩む。
 あの日交わした永遠の約束が、どちらかの手によって破られてしまう。なんて事は日常茶飯事で、裏切り裏切られ、すれ違いまた新たな絆を求める。
 でも、いつまで経っても変わらないものがあってもいいじゃないか。
 昔流行った究極の選択とか、どれだけ悩んでも結論なんて出ないものだよ。ましてやそれが、大切なものの片方を失う事になるとしたら。

 だから僕は、いつまでも女々しく悩み続けていたい。」


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