→Rock'n Roll→  Tasogare Akane  top      第2巻

   043.まつりのあと

 ライヴが終わった後だっていうのに、いつもみたいに全身を熱気が帯びていない。多分6バンド中4番目だったせいと、早々に体育館から足を遠ざけたからだと思う。今頃ステージは大盛り上がりなんだろう。でも、俺達は観て行こうとかちっとも思わなかった。どれだけいいライヴをやったところで、主催者側の態度が気に入らないんだから熱が冷めるのも早い。キュウがちゃんと出演料の確認を取ったところで、足早にそこを離れた。
「ちょっと急用ができたんだ。ごめん、ミーティングは後でちゃんとするから」
 ひとまず休憩できる場所に行こうと集団で移動しようとした所で、青空が一足先に断りを入れ、ギターを担ぎ先に帰った。これから溢歌に会いに行くつもりなんだろうか?胸の中でくすぶっていた嫉妬心が煮え立つのを感じたけど、俺は何も言えずに自分のギターを渡した。
 どうして何もかも置いてでも溢歌に会いに行かないんだ、俺は?
 一足先に帰る青空の背中を眺めていて強く思ったけど、それは多分、あいつの前で青空と会うのを心底怖がってるせいなんだろう。そうする事で始まってしまう激動の渦に身を投げ出したくないから。
 俺が考えてるうちに、初めてこの大学に来た時に和美さんと待ち合わせした白いコテージの喫茶店があるテラスの階段前まで来ていた。
 まだステージは続いてるから、いつものようにライヴ後に外で出待ちしてる客達に捕まる事もない。ミーティングは別にすると青空は去り際に言っていたけれど、今のバンド状態で本当にやるのかどうかはわからなかった。
 テラス側の席が埋まってたので俺達は中に案内される。店内には学園祭中だからか、そのために描き下ろされた作品が壁一杯に敷き詰められていた。絵一枚一枚ごとのカラフルな色彩に思わず目が眩んでしまいそうになる。
 バンドのメンバー3人+マネージャー(一応)と、藍染'sの総勢7人で隣り合わせの4人用のテーブルを二つ囲む。片方のテーブルは俺、愁、千夜、キュウ。そしてもう片方は、
「どーしてオマエがこっちなんだ」
「そーゆーおめーこそ和姉から離れろってんだ」
 和美さんを挟むように右にイッコー、左にみょーという骨肉の争いが繰り広げられる組み合わせ。見ているだけで面白い。
 ここに青空と溢歌がいたら、もっとおもしろかったかもしれない。まあ、そこの二人みたいに青空と溢歌を取り合いするのは真っ平ゴメンだけど。
「おねーさま、あっちのジョシコーセー姿もよかったのにぃ」
 キュウが右隣に座ってる千夜の姿を上から下まで眺め回して、ため息をついた。
「来なければよかったと心から思う」
 頬杖をつきながら頬を膨らませてそっぽを向いてる千夜がぽつりと呟く。今はもういつもの黒系統の服に身を固めてて、トレードマークの黒縁の丸眼鏡をかけてる。髪の毛も整髪料で固めて横跳ねのツンツン頭になってるけど、時間が無かったせいかあまり整ってない。でも、やっぱり俺にはこっちの姿のほうがしっくりくる。
「なに言ってんのおねーさま、すごいカッコよかったのに」
 キュウがじゃれつこうとすると、千夜は目だけ動かして鋭い目で睨み返した。
「来たばっかりで何の準備もしてなかったのに無理矢理ステージに上げたのは一体、どこの、誰?」
「うう、だってえ、凄いかわいかったんだもん……」
 語尾を強めながら一語一句尋ねる千夜に、キュウは蛇に睨まれた蛙のようにしゅんとなって、爪を噛みながら怒られる子供のように上目遣いに視線を返す。もう一言言いたげだったけど、千夜は大きくため息をついて灰皿を用意した。
「でもあのブレザーって樫之木女学院の制服じゃなかったっけ」
 愁が唇に人差し指を当てながら思い出すように呟いた。俺は学校についてはさんざん疎いから、その名前は初耳だ。
「ええっ!?あそこって県内一の女子高じゃなかった!?」
 キュウが目を丸くして思わず席を立つ。全員の視線がキュウに注がれた後、次に千夜に向けられる。
 千夜は煙草に火をつけて一度吸ってから、キュウとは対称的に落ち着いて答えた。 
「別に行くつもりはなかったけれど」
「そう言うけど、あそこってそれこそ国立レベルと変わらないくらいレベルが高いお嬢様学校じゃない!おねーさま、あそこに通ってたんだあ」
 感嘆してキラキラした羨望の眼差しを千夜に向けるキュウ。でもあまり快く思ってないのか、千夜はしかめ面を浮かべる。
「そんな目で見られるのが嫌だから今まで何も言わなかった」
「ううん、それでもやっぱりおねーさまはおねーさまだもん♪」
「わっこら、ひっついてくるな、灰が落ちる」
 それでもへこたれないのかキュウは構わず千夜にじゃれつく。出会った当初は本気で嫌がってたけど、今はもう諦めてるのかそれとも受け入れてしまってるのか、ほとんど止めなくなった。
 千夜の学園生活なんて全然想像できないけど、もしかすると後輩から慕われていてバレンタインの日にはチョコを貰ったりするのかもしれない。我ながら安易な想像だと思う。
「けどよー、あのお嬢様じみた格好は結構様になってたじゃんか。次もあれで叩けば?」
 イッコーが白い歯を見せて笑うと、千夜の投げた灰皿が顎にクリーンヒットした。
「二度と御免だ」
 千夜は隣のテーブルから新しい灰皿を持ってくる。もんどり打ってるイッコーを和美さんが心配そうに覗きこんでる横で、みょーがせせら笑ってた。
「確か和美さんも同じ学校じゃなかったっけ?」
 愁の言葉に今度は和美さんに視線が集中する。
「ええ……ちょっとさっきから気になってたんだけれど、もしかして波止場さん?」
 和美さんが一番席の離れた千夜に問いただす。千夜が怪訝そうに視線を返してると、和美さんはワイン色のカチューシャを外して前髪を整え出した。
「雪森先輩っ!?」
 すると千夜が目を丸く仰天した。驚きで椅子が大きく音を立てる。
「ああ、やっぱりそうだったんだ。お久しぶり」
「あ、あ、お、お久しぶりです、先輩……」
 驚きと困惑と嬉しさと戸惑いの入り混じった滑稽な表情を浮かべながら、千夜は改まって深々と頭を下げた。
「なに、知り合い?」
 みょーが訊くと和美さんは頷いて、カチューシャをはめ直した。サラサラの髪が後に流れるその仕草は、美容品のCMを見てるみたいだ。
「私、女学院時代は軽音楽部に通ってたの。3年の時に新入生で部活に入ってきたのが、波止場さん。ヴァイオリンを弾くのが凄い上手だったのを覚えてるわ」
「そ、そんな……止めて下さい」
 慌てて席を立ち上がろうとする千夜。それでも構わず和美さんは楽しそうに続ける。
「卒業してからは顔を合わせてなかったけれど、よく面倒を見てたの。それこそ今の姿なんか想像できないくらいおとなしい子で、ドラムを叩いてるなんて全然知らなかった」
「わー、わー、わーっ!!」
 顔を真っ赤にして、千夜は大声を上げる。その姿はいつもの気丈な千夜からは全く想像できない、お嬢様学校に通ってる一人の女子高生だった。
「それにカズ君のライヴに連れて行ってあげたこともあったの。テープを渡したらすっかり気に……ふぐむぐ」
 とっさに千夜は話を続ける和美さんに駆け寄って、口を塞いだ。
「お喋りなところはちっとも変わってませんね、先輩……」
 千夜は顔びっしりに冷や汗をかいて、大きく肩で息を切らしてる。放っておいたら過去を洗いざらい暴露されてしまいそうな気でもしたんだろう。
「だって皆さんそれぐらい知ってるんでしょう?なら大丈夫じゃない」
「いえ、それはその……」
 俺達と和美さんの顔をちらちら交互に眺めながら千夜はしどろもどろになってる。
「なごちゃん、後でおねーさまのことたっぷり教えてねー」
「ええ、いいわよ。面白い話がたくさんあるから」
「聞くなっ!!」
 肩を怒らせてキュウに怒鳴る千夜。ここまで取り乱すなんてそんなに恥ずかしいのか。
「しっかしホントーにいいとこのお嬢様なんだなー。バイオリン弾く千夜の姿なんてちーとも想像つかんわ」
 俺もイッコーに同感だった。今まで全然自分の事を話そうとしなかったから、普段も勝気で男共をぶん殴ってるんじゃないかとばかり思ってたけど、どうやら正反対みたいだ。
「本当に来るんじゃなかった……」
 千夜は疲れた顔で呟いて、席に戻った。するとちょうどウエイトレスが頼んだドリンクを持ってくる。みょーがコーヒーにミルクと砂糖をたくさん入れるのが意外だった。
「こうやって見てみると、世間って広いようで思ったより狭いね」
 隣にいる愁がしみじみと呟いた。全くそう思う。最初は本当に青空と俺以外バラバラの人間が揃ってると思ってたのに、実は全員誰かと繋がりがある。一人でも抜けてしまったら話が成立しなくなるような、そんな人間関係が。
 その後は、雑談に花が咲く。青空と溢歌の事がずっと心に引っかかっていたけど、なるべく考えないようにみんなの話題に乗った。こんなふうにして本当に重要な事から逃げてるのはわかってる。いつになっても俺はこういう生き方しかできないんだと思う。
 逃げるの戦うのと、どっちが苦しいのかはわからない。なら、俺は楽な方を選んでしまう。それだけの事。それだけの。
「そういえば、今年卒業じゃない?波止場さん」
 和美さんが尋ねると、千夜は少し苦い顔で頷いた。いつまた何を喋られるかわかったもんじゃないから気の休む暇もないんだろう。嫌なら帰ればいいのに、それでも一緒にテーブルを囲んでるのはよくわからなかったけど。
「ええ、一応受験生ですけど……」
「なんだ、大学行くん?そんなら油売ってる暇なんてねーんじゃねーの」
 イッコーが少し神妙な顔で呟くと、千夜がすぐさま反論する。
「私は本気でやってるんだ!」
 テーブルに拳を打ちつけて真顔で吠えると、店内に瞬時に沈黙が走った。全員の視線が千夜に集中する。スピーカーからリラクゼーション調の曲だけが間抜けに流れていた。
 愁やキュウはどうフォローすればいいのか言葉を探してるようだったけど、イッコーは普段と変わらなく歯を見せてゆったりと笑ってる。
「わーってるって。でも、今が一番大切な時期なんだろ?おれは大学なんか最初っから行くつもりなんてなかったしよくわかんねーけど、一度にどっちも手に入れよーなんて考えてる時じゃねーだろ?ホントにどっちも欲しいって思うんなら、少しの間片方に目をつむんのは悪いことじゃねーと思うぜ」
 何だか自分に言われてるような気がした。俺も結局溢歌と愁の両方を欲しがってる。それにこのバンドも失ったメロディも。
 一度に全てを望む事は悪くない。ただ、それだと単なる理想だけで終わってしまう場合が多い。本当に手に入れたいものには、1歩1歩自分自身の足で近づいていかなくちゃいけない。決して向こうからやってこないんだから。
 そうやって愁は俺を振り向かせたんだろうし、溢歌を宙ぶらりんにした俺は少しづつあいつとの距離が離れていってる。
 悔しいけどそれが現実だ。
 イッコーだって高校生の時から早くも音楽業界の波に呑まれたんだろうし、俺以上に苦汁や喜びを味わってるに違いない。だからこそ気楽な笑顔の言葉の中に重みがある。
 いつも自分の事しか考えてないガキの俺とは大違いだ。
 気付くと店内にも明るい空気が戻って、先ほどの沈黙が嘘のように賑やかな時間が再び流れ出した。
「ねえ、大学はどこを受けるの?」
 千夜が言葉を返すより早く、和美さんが興味津々に尋ねた。おしとやかそうな外見とは裏腹にお喋りな部分がある、そんなギャップの差が和美さんの魅力なんだと思う。
 しばらく言いにくそうに千夜は顔をしかめてたけど、隣のキュウにだだをこねられて、観念したように渋々答えた。
「今のところは特別決めてないけれど……音大を受けようと思ってるんです」
「ぶっ」
 いきなりカップに口をつけてたイッコーが吹き出した。むせてるところを和美さんが優しく背中をさすってやる。
 いまいち吹き出した理由がわからずにいると、愁が俺に説明してくれた。
「音大ってものすごくレベルが高いの。ましてや国立なんて超難関。それこそいいとこの高校からじゃないとほとんど入れないくらい」
 それを聞いて何となく凄いって事だけは理解できたけど、ピンと来なかった。俺には全く関心のないものだからなんだろう。
「頭いいんだ、おまえ」
 とりあえず千夜に感心する。言ったら殺されるけど、普段の千夜の姿からはそんなかけらの一つも感じなかったからだ。ましてや制服着た姿なんて一度も想像した事がなかった。
「だって樫之木女学院よ樫之木女学院。頭いいに決まってるじゃん。高校中退した誰かさんとは大違いね」
「悪かったな」
 どうしておまえが自分の事のように鼻高々なんだ、キュウ。
「じゃあなおさら、バンド続けてる余裕なんてないんじゃねーの?」
 隣のテーブルのみょーが訊いてくる。こいつも何だかんだ言って大学生なんだから、受験の大変さは身に染みてるんだろう。そんなに頭良さそうには見えないしな(偏見)。
「ん……それなら大丈夫です。志望校の受験日は二月三月なんで……音大の受験は普通の大学受験より日程が遅くなってますから」
 千夜の丁寧な口調を聞いてると背中がむず痒くなってくる。どうやら礼儀正しい部分もあるらしい。いつもはそれこそ我が道に敵無しって感じだけど。
「……それに、自分でも大学に行きたいのかよくわからない部分があるのが本音です」
 コーヒーを口につけて一息いれてから、千夜はカップに目を落として呟いた。こいつの憂鬱そうな表情を見たのは久しぶりのような気がする。
 こうやって見てみれば、なかなか男ウケする奴だなって思う。実際千夜を口説こうと挑戦したバンドの知人もいたし、ことごとく玉砕してるのをイッコーと腹を抱えて見ていた。
 背も愁とほとんど変わらないくらい小柄だし、眼鏡をかけてても端正な顔立ちは崩れない。それでいていつも黒系統のファッショナブルな衣装で身を包んでいるから、ファンの数も男女問わず結構いるようだ。
 強気な性格の間にほんの少しだけ憂鬱な表情を見せられると、男共はコロッと参ってしまうのかもしれない。犬猿の仲の俺にとっては全く興味はないけど。
 ふと、この場で今こんな馬鹿げた事を考えてるのは俺だけじゃないかって思った。他のみんなはちゃんと耳を傾けて聞いてるに違いない。少し罰当たりな気がしたけど気にしない事にした。
「どうして?」
 和美さんが心配そうに尋ねると、千夜は真顔ではっきりと答えた。
「だって、大学でドラムは専攻できないじゃないですか」
 一瞬の沈黙。
 そして、大爆笑。
 また俺達のテーブルに店内の視線が集中する。ウエイトレスは変な団体さんだと思ってるんだろう、きっと。
「なっ……笑うところじゃないだろうっ!」
 千夜は顔を真っ赤にして怒鳴るけど、笑いは一向に止まらない。みょーはテーブルに額をつけて笑いを必死に堪えて、イッコーは腹を抱えて大袈裟に床を転がってる。和美さんでさえ口を開けて大笑いして、愁とキュウは笑い過ぎで出た涙を指で拭っていた。
「モーションもなくとんでもないストライクをかますな、おまえは」
 もちろん千夜は本気で口にしたに違いない。でもそれが余計に爆笑の渦を巻き起こす結果になった。天然ボケじゃないのはわかってるけど、それだからこそ笑える。
「イッコーも転がるなっ!」
 恥を隠すように笑い転げるイッコーを注意して、席に戻らせる。しばらくすると笑いも収まってきたけど、それでもみんな思い出しては笑いを噛み殺したような顔をしていた。
「ごめんごめんおねーさま。でもホントにおかしかったんだもん」
 キュウがほころんだ顔のまま千夜をたしなめる。どうやら和美さんに会ってしまったせいで、調子が狂いまくってるみたいだ。
「何故だかわからないけれど無性に悔しい……」
 千夜はそっぽを向いて、胸ポケットから取り出した煙草に火をつけた。
「でもまあ、大学じゃドラムは学べねーわな。専門学校ならいろいろあるらしーけど」
 イッコーがとってつけたようなフォローをする。俺も詳しくは知らないけど、ミュージシャンを養成する専門学校ってのも世の中にはあるらしい。まあ、千夜ぐらい叩ければ学ぶ必要なんてどこにもないと思うけどな、本気で。
「じゃあ、波止場さんは何を専攻するつもりなの?」
 和美さんが話を進めようとする。千夜は煙草の煙をふうっと吐き出してから、答えた。
「ヴァイオリンか、ピアノです。ヴァイオリンの方が得意なんですけど、弦楽器なので。ピアノも一応弦楽器ですけど……感覚は打楽器ですから」
 千夜にヴァイオリン……絵になるといえばなるような気もするけど、これまたピンと来ない。やっぱりこいつに一番合ってるのは、ドラムだと思う。
「出願期間も来年ですから、じっくり考えてみます。バンドもできるところまで続けていきたいと思うので」
 どこか煮え切らない表情を見せたまま、千夜は灰皿に咥えてた煙草を置いた。
「一応ここにも音楽学科はあるもんなー。どう?ここに入ってオレらの部に来ない?」
 みょーが軽口で千夜を誘ってみる。こいつに関しては冗談なのか本気なのかよくわからないところがある。慌てて和美さんが横槍を入れた。
「もう、困らせちゃ駄目。ごめんね波止場さん。でも、自分の将来なんだからよく考えて決めるのがいいと思うわ。わたし達にできることがあったら力になるし。さすがに楽器は教えられないけど、ね」
 軽く微笑む和美さんの顔を見て、千夜もほんの少しだけはにかんだ。今日は本当に目新しいものばかり見ている気がする。
「もう、私の話ばかり止めませんか?どうもこういうのは苦手で」
 いい加減しびれを切らしたのか、千夜が切り出した。俺にしてみればこのままずっと千夜の本性を暴いていくのも楽しいけど、それも可哀想だからやめておいてやろう。
 そのまましばらく小一時間ほど談笑してから、みょーの絵を見に行く事にした。どういうわけかキュウが全員分おごらされて(「今回のギャラが入ったら真っ先に差し引いとくからね」って泣いてた)、そのまま7人で部室の方角へ足を進める。イッコーも千夜も、特に今日はこの後用事がないらしいから、俺が誘った。こいつらにも見て欲しいって思ったからだ、みょーの絵を。
 自分の創ったものでもないのを他人に見せたいって思う気持ちなんて今までになかった。
 いや、みょーの絵は、俺の絵だ。
 俺の心の奥底を映し出した絵。
 なら、あいつは俺の唄に自分の何を見たんだろう?
 その答えが、今回描き上げた絵にこめられてる気がした。
 それにしても、こいつらといると楽しい。溢歌の事も青空の事も、この間だけは心の片隅に置いておいて笑っていられる。
 もしかすると俺の欲しがってた理想郷は、もうとっくに手に入れてるのかもしれない。


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