→Rock'n Roll→  Tasogare Akane  top      第3巻

   068.デザート

 連休の最終日。
 俺達は、キャンディーパークに面するファミリーレストランにミーティングを行うために集まった。幸い外出するにはいい天気で、公園には家族連れの姿も結構見かけた。
「そう言や黄昏って成人式に出たの?」
 窓の外に見える晴れ着姿の女性を眺めて、隣の青空が訪ねてくる。
「ああ、そんなのもあったっけ…そういや、二十歳になったんだな自分。……誕生日っていつだったか」
「そりゃねーだろ」
 すかさず向かいに座るイッコーがツッコミを入れる。昨年の誕生日は、何をしてたかよく思い出せない。多分普通に自堕落な時間を過ごしていたんだろう。
「……大人になった感じが全然しないな」
 自分の顔をさすりながら呟く。相変わらず他人の足を引っ張ってばかりで、迷惑ばかりかけて、よく生きてこられたもんだ。まさか二十歳まで生きるとは思ってなかった。それぐらい自分の人生に絶望していたし、今もほんの少しの先の未来でさえ不透明だ。
「そんなもんだろ。普通に生活してりゃ、一気に変わるもんでもねーって。子供ができたりすりゃ色々変わるんじゃねーの、責任感とか」
「俺には未来永劫縁のない話に思えてくる」
 イッコーの言う通りだとしても、俺はいつまでも子供のままで、今のままいる気がする。ようやく前を向けるようになったとは言え、他人と比べると成長したなんて言うにはおこがましいもほどがある。
 神経がすり減るほど苦悩してる俺でも、他人の方が何倍も喜怒哀楽の人生を送ってるように思える。そう考えるのは自分の人生が薄っぺらく、些細な事で絶望してしまう自分の心の弱さを認めてるからに他ならない。
「何言ってんの、子供なんて持とうと思えば簡単に作れるじゃない」
「頼むからおめーが言うなよ……」
 イッコーが横に座るキュウにダメ出しをする。キュウが言うと半分冗談に聞こえない。
「欲しくなったらアタシのトコへ来なさい」
 胸を張るキュウに、周りの男3人はドン引きだ。青空も乾いた笑いを浮かべてる。
「冗談はこれくらいにして…とりあえず、順に話を始めましょ。で、何から話せばいいんだっけ」
「えっと……じゃあまずは千夜の件について僕から話そうか。黄昏も全部聞いてないと思うし、とりあえず頭から」
 青空が話し始めようとしたところで、ちょうど店員が頼んでいたみんなの分のコーヒーを持ってきてくれた。俺はブラック、青空はカプチーノ、キュウはエスプレッソ、そしてイッコーはミルクコーヒーだ。
「しゃれたもんよりパックの安いコーヒー牛乳の方がうめーと思うんだよなあ」
 とはイッコーの弁。
 店員が去って行ったのを確認してから、青空が話し始める。俺達の周囲は全部空席なので、千夜の話題も人目を気にすることなく話せる。
「千夜を襲った犯人は、年を跨いで全員捕まえる事ができたよ。最初に襲ったグループが主犯って事になるみたい。詳しい罪状はよくわからないけど、これから起訴して、実刑が出るまで少し時間がかかるって。刑事訴訟に関してはすぐ済みそう」
「ま、そのへんはおれらにゃ関係のない話か。襲った連中を捕まえるのに手助けできただけでもじゅーぶんよ。これで千夜も枕を高くして寝られるってもんよ」
「そんな簡単な話なワケないじゃない、バカね」
 鼻高々に笑うイッコーを呆れた顔でキュウが諫める。確かに、被害に遭った者の苦しみは当事者が一番理解してる。
「全国的なニュースにはなってないけど、ローカルの新聞には載るくらいの大変な事件だったんだから。そーゆーのが物好きな連中がかぎ回ってて、襲われた相手が誰かって噂してるくらいなんだから」
「うへえ、ほんっとどこにでもいるよな、そーゆーん。ま、話の種になるし興味はあるって気持ちはわかんなくもねーけど」
 イッコーの言う通りだ。凶悪犯罪を起こした少年の素顔や実名を知りたくなる庶民の気持ちってものだろう。TVの悲しいニュースさえ耐えられない俺には到底理解できない。
「襲われたのがスタジオだし、どこの誰がっていう話題はちらほらと耳にするぜ」
「幸い『N.O.』のおやっさんが、事件の話は一切他言無用にしてるんで、事無きを得てるけど。ただ、捕まえたバンドの連中の周りの人間が、千夜じゃないかって話もしてる。ただ僕達は誰かに聞かれても答える義務は無いし、全部無視してるよ」
 青空が声を潜めて話す。周囲に人がいなくてもどこから漏れるか危惧してるんだろう。
「千夜も『Days』一本に絞ってからはバンド関連で僕達以外の人と会う機会はめっきり減ってるからね。受験で忙しいから顔を出せないって理由で誤魔化せるし」
「問題は、これからよね……。おねーさまがどれだけ今回の件で心に傷を負ってるのか、毎日見舞いに行ってたアタシもわからないもの。アタシの前では泣くコトもしないで笑顔を見せてくれるけど、これからどれだけ立ち直るコトができるのか、どれだけ引きずってしまうのかなんて本人じゃないとわからないじゃない」
 湯気の立つカプチーノに視線を落として、キュウが少し怒気の籠もった声で言う。本当に犯人達が許せないんだろう。同姓だから千夜の痛みも俺達より理解できてるはずだ。
「だからおれ達がサポートすんだろ。周りのやつらが支えてやらねーとどーするよ」
「ソレもそうだけど……アタシ達にできるコトって、音楽だけなのよね」
「うん、だからこうやって、集まって貰った訳なんだ」
 青空が身を乗り出す。直接顔を合わせるのはたったの二週間ぶりなのに、青空の顔が妙に大人びて見えるのは溢歌の件や今回の件で色々な経験を乗り越えているからか。
「……とりあえず、アルバムを作ってみようと思う。前みたいなミニテープじゃなくて、ちゃんとした売り物になるのを。と自信持って言ってみたのはいいけど、僕なんてズブのド素人だから、そんなの本当にできるのか不安で仕方ないけどね」
 照れくさそうに笑う青空の言い分はよくわかる。どれだけ自信を持っていても、初めて挑戦することに不安は必ずつきまとう。心配性の青空ならなおさらだろう。
「でも、おねーさまはどうするの?このまま続けられるかどうかわからないのに?」
「そういやキュウは訊いてねーの、千夜にバンド続けられるかって」
 不安がるキュウに、イッコーが楽観的に尋ねる。
「バカね、そんなの訊けるワケないじゃない!日常会話するのでも結構大変なのよ、おねーさま全然TVとか芸能人とかも詳しくないし、周りの女の子みたいな趣味もないし」
「千夜はホントに精力的に動いてたからね……たくさんバンドを掛け持ちしていた時もそうだけど、どれだけ日常のスケジュール埋まってるのって感じがしたもの」
「すっげー堅っ苦しいやつだしなー。つっても、おれらもメンバーの趣味とか全員知ってるわけでもないしさ。てか全員音楽以外大して興味なくね?」
「それは言えてるかも……せーちゃんも全然詳しくないものね」
「ギター持ってからは、上手くなる為に必死に練習ばっかりしてたし……今もそうだけど。曲作りとか、そっちの方で頭が一杯になっちゃうから、暇な時間とか心の余裕とかはずっと無い感じがする。四六時中悩みに付き纏われてるみたいで」
 実に青空らしい。何だかんだで4人とも、結構似てる。
「ただ、千夜の事は抜きにしても、音源を形にする事はやっておいた方がいいと思うんだ。このまま年度を跨いで千夜をずっと待つのも何だし。せっかく黄昏がやる気出してくれてるんだから、この機会を逃すとまた部屋に籠もっちゃうか分からないしね」
 酷い言われようだ。本当のことだけど。
「冗談はともかく、今のバンドのこの流れは止めたくない。ここ数ヶ月のライヴで何か見えない力に押さえている感じ――ファンの期待とでも言うのかな――があるし、この時間を無駄にしたくない。……本音を言うと、そうでもしないと僕自身、平静を保っていられなくなる所があるんだけどね」
 青空のその気持ちも、俺達3人も理解してるはずだ。第一俺なんて今バンド活動できなかったら、ただ何もしないで溢歌をひたすら部屋で待ち続ける以外にやれることがない。
「収録する曲はどーする?今までやってきたライヴの曲全部入れちまう?」
「どうだろう、大してやらずにお蔵入りになったものはやらなくていいと思う。いくつか新曲を作りたい気分ではあるけれど……それに関しては千夜にも訊いてみたいと思う。もちろん受験の邪魔にはならないようにしたいし、無理にとは言わない。僕達四人で大体決めてしまっていいんじゃないかな。それで千夜も納得すると思うし」
「青空がそう言うんなら、それでいいのかもな」
 どれだけ気を配っても、千夜に関しては妥協しないといけない部分もある。ドラムの音を取るのは最後になるのを覚悟しておいた方がいいだろう。
「黄昏はどう?やりたい楽曲とかある?」
「俺?俺は青空が決めてくれればそれでいい。俺が歌いたいと思ってる曲は、青空が選んでくれるものだと思ってるから」
「何だその相思相愛っぷり」
 イッコーが呆れた口調で茶化してくる。素直な気持ちだから仕方ない。
「イッコーはどうする?自分の曲があるだろ?」
「そうさね……んでも俺の歌ってる曲なんてそんなねーし、1,2曲で十分よ。アルバムの楽曲の流れで選べばいーんじゃねーかな」
 もうちょっと自己主張してくるものかと思ったら意外だった。
「ちょっと待って、アタシメモ取るから」
 本格的に議論に入りそうなのを見て、キュウがバックからいつものメモを取り出す。可愛らしい女性向けのメモ帳で、そこにはこれまでの『Days』の様々な事柄が書かれてる。
 そのまましばらく、どの曲を録るかについて話し合った。気付けばすっかりコーヒーは冷めてしまって、お代わり自由のを頼めばよかったと少し後悔した。
 ひとまず4曲ほどライヴの定番の曲を選んでおいて、それを次にスタジオに入る時に録音してみようという話になった。本来ならその前に一度4人で音合わせができれば理想だけど、こればかりは仕方ない。アルバムのタイトルや構成なんかは、全部先送りすることでこの場はまとまった。
「金の面に関しては?全部録り終えるまでにスタジオに入る余裕ってあるのか?」
 議論中に思い浮かんだ疑問をみんなにぶつけてみる。
「どうかしら。これまで貯めてきた分、全部スッカラカンになっちゃう可能性もあるわよ。ちゃんとした録音をするなら、スタジオの人に付きっきりで手伝ってもらわないといけないし、普段よりお金がかかるみたいよ。次のライブの会場を借りられないかも」
「借金は気が引けるわなー。新しいアルバム作った後に、お披露目ライブはやりてーけど。つっても今でさえツアーなんてやる余裕も体力もこのバンドにはねーもんな。学生もいるし。流通とかそーゆーの考えるとマジ頭痛くなってくっから、どっか事務所と契約したほうがいーかもなー。そのほうがキュウも楽だろ?」
「モチロンそうだけど……まさか全部アタシに事務押しつける気じゃないでしょーね」
「んなつもりはねーけどよ。とりあえずどっか探しとくか、音録ってる間に。今回一回限りでできるトコがありゃいーんだけど、そんな都合よくいかねーわな」
 イッコーが笑い飛ばすのを見ながら、ラバーズのマスターなら何とかなるような気もした。都合が良すぎるので、かえって気が引けるか。
「初めてのちゃんとした録音なので上手く行かないことも多いと思うけど、頑張ろう。とりあえず僕とイッコーで、ドラムマシンの下地は作っておくよ。来週辺りにでも一度入れればと思うけど、その時には連絡入れるから黄昏も歌の練習をさぼらないでね」
「ああ、わかってる」
 青空に念を押される。とりあえずこの季節は風邪に気をつけておこう。冬場で乾燥しやすいのもあってか、目覚めた時に少し喉が痛くなる時がある。そのまま安静にしていればすぐに気にならなくなるけど。
「喋ってたら腹減ったから何か頼むか」
 小一時間話し込んだせいか、イッコーがくたびれた顔で店員を呼ぶ。俺もまともに外に出て会話するのは今年初めてなので、それだけで疲れる。虚弱体質だとつくづく思う。
「あ、ちょっと席外すね」
 キュウの携帯の着信音が鳴って、電話に出てから一旦店の外へ出て行く。その間にイッコーもトイレで席を外して、テーブルに青空と2人だけになった。
「あんまり怒ってないのな、キュウ」
 今日、店の前の公園でキュウと顔を合わせた時は、バッグで顔面を殴られるのを覚悟していたのにそんな様子もなく、ケロっとしていていつも通りに俺と接してる。
「内心は凄く怒ってるよ……」
 俺のそっけない呟きに青空が反応する。
「自分の感情で場を壊したくないから、我慢してるんだよ。今日までキュウの泣き言は本当にたくさん聞かされたからね。けどせっかく集まったのに、何も話ができないんじゃ駄目だからね。バンドの話は終わったし、この後覚悟しておいた方がいいよ」
 背筋が寒くなるようなことを言う。キュウの性格からしてこのまま黙って帰してくれるとも思えないので、覚悟しておこう。
 そんな会話をしてるうちに、キュウが戻ってきた。
「ジョシコーセーも楽じゃないわね。何でアタシに恋愛相談なんか……」
 ぶつぶつと何やら不満を漏らしているのを俺は聞かないフリをして、すっかり氷の溶けた水を口に含む。青空は機嫌の悪そうなキュウを隣でたしなめていた。
「日が沈むのが早いな」
 こっちに出てきた時はまだ太陽が輝いてたのに、窓の外に目を移すともう空が暗くなり始めてる。この寒さじゃ雨も雪に変わりそうだ。
「じゃあ、今日はお開きと言うことで」
「待って」
 席を立とうとすると、ぴしゃりとキュウの一言が飛んできた。視線が痛い。
「他に御用でも?神楽さん」
「何かしこまってんのよ。アタシはアンタに個人的な用事があるんだから」
 勘弁してくれ。ただでさえ愁のことを考えると胸が苦しくて目を背けてるのに。
「僕等もいた方がいいかな?」
「たそ一人にしたら逃げ出すに決まってるもの。ほらそこでじっとしてて」
 青空が通路側の席に座っているせいで、俺は袋小路で出られない。
「さて、黄昏クン」
「はい」
「アタシはね、凄く怒ってるの。大事なトモダチを傷つけられて、そりゃもう憎くて憎くて許せないくらいに。でもアタシは手を出したりしない。何故だかわかる?」
「……さあ……」
 ぶしつけに質問されても困る。曖昧な態度でいると、キュウの表情が強張った。
「愁のヤツがアンタのコト必死になってかばってるからに決まってるじゃない、バカっ!」
 店内に響くほどの大声で怒鳴ったので、店内のざわめきが一瞬静寂に変わった。思わず立ち上がったキュウを青空がたしなめる。キュウも理解したのか、肩を震わせて視線を俺に向けたまま着席し直した。
「一緒にいる時は以前と変わらない素振りでいるわよ。でも向こうからたその名前は一度も出ないし、アタシからもたそのコトを話題になんてしないもの。おねーさまと同じよ。自分を保つために必死に振る舞ってる。だからアタシはそばにいて一緒に笑ってあげるの。アンタにはもうできないコトなのよ、わかる!?」
 かなり胸に刺さる言葉だ。俺が傷つけてしまったんだから、無理もない。
「まーまー少し落ちつけって。そりゃ全面的にたそが悪いんだろーけどよ、起こってしまったことはしょーがねーっつーか」
「しょうがないの一言で済むなら警察なんていらないわよ!」
 イッコーのフォローも火に油を注ぐ結果になってしまってる。俺達の様子を見に来た店員に青空が謝って、おそらくキュウの分のデザートを一つ注文した。
「どーせ他の女にうつつを抜かしたトコを、あの子に見られたとかそんなんでしょ。ちょっとくらい顔がいいからってつまみ食いしてるんじゃないわよこのスケコマシっ」
 酷い言われようだ。半分以上当たっているので、苦笑いを浮かべるしかない俺も俺だ。愁に鞄をぶつけられた鼻をさすってみると、正月過ぎる頃まで治らなかった痛みもない。
「何よ、何か言いたそうな顔してるわね。弁明くらいならいくらでも聞くわよ」
「黙って頭を下げるしかないだろ。アイツが何も言わないんなら、俺が言うのもどうかと思うし。ただ、おまえの言う通りに愁を傷つけたのは、俺が全部悪いよ。反省もしてる。かと言って、今の俺にできることは頭を下げる以外にない」
 キュウに向かって深々と頭を下げる。両手をついて大仰にやるとギャグに見られかねないので、きちんと反省して。別に俺は他人に頭を下げることに大して抵抗もないけど、キュウはそんな俺の態度が気にくわないのか、苦虫を噛み潰したような顔を見せている。
「ま……まあいいわよ。これからたそがあの子とどーゆーふうにつき合うのはわかんないけど。二度と近づくなとか、ヨリを戻せなんて言いたくないし。あそこまで思いつめちゃうのが愁って子だもの、時間が経てば頭も冷えてくるわよ」
 それでも自分を納得させたのか、キュウは落ち着いた表情を見せる。
「そーいや、ダチがあんな目に遭ったってのにキュウはおれ達と一緒にいんのな」
 イッコーの疑問にキュウが目を丸くさせる。
「そりゃ、あの子はあの子で、アタシはアタシだもの。そりゃたそのコトは恨んでますよ。でもね、好きな人をいきなり嫌うってのはしんどいじゃない?そんな労力割いて、アタシはこれまでの関係をフイにしたくないもの」
 大人だ。3歳も年下なのに俺以上にしっかりしてる。
「それにせーちゃんともまだ別れたくないしね♪」
「なっ、何で名指しっ」
「取り憑かれてるみてーだなおい」  
 ウインクをされて青空がたじろいでるのを、俺達2人は呆れた様子で見てた。
「そう言えば、ジゴについてはどうなったんだ?」
 これ以上愁の話題を引きずりたくないので、気になってたことを尋ねてみた。
「ああ、まだ直接乗りこんで行ってねえ。明日にでも行ってみっか?あいつらの根城にしてたライヴハウスは知ってるし、全員逮捕されたから余計なちょっかい出してくるやつらもいねーだろ」
「黄昏も連れて行こうと思ってたからね。いるかどうかは行ってみないとわからないけど、千夜の事件に関して色々聞けるかも知れないでしょ」
「今更聞いたとこで、胸くそ悪くなるだけだけどなー。つっても見過ごすわけにもいかねーし、あいつに話つけて気分よく録音に望みてーわ」
 イッコーの言う通り、千夜が襲われた本当の理由や、過去に一体千夜に何があったのか、全て知らないと胸のもやもやも晴れない。
「はいはい、アタシも!アタシも行く!」
 手を挙げて同行を求めるキュウにイッコーが眉をひそめる。
「やめとけって、おめーがついていったとこでガラの悪い男連中に絡まれるのがオチだぜ。ライヴハウスのあるとこも治安の悪ぃ地域だし、何されるかわかんねーぞ」
「何よ、命まで取られるワケじゃないでしょ。そんなのあしらうくらい朝飯前よ」
 胸を張るキュウを見て、余計に不安になった。一体何をするつもりだ。
 青空とイッコーは顔を見合わせ、やれやれとため息をつく。
「しょうがねーな、後でじっとしてろよ。何かあったら全力で逃げろな」
「おれが守ってやる、くらいの一言くらい言ってみたらどうなのよ」
 注文をつけてくるキュウの姿に、俺達三人は揃って肩をすくめる。その時ちょうど、頼んでいたデザートのチョコバナナパフェが運ばれてきた。
 キュウの胃袋に入ったのは言うまでもない。


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